3月1日(水)に第68回卒業証書授与式が行われました。

 

厳粛で感動的な、とてもよい式となりました。

卒業生の皆さん、保護者の皆様、本当にご卒業おめでとうございます。

以下は校長式辞です。

三寒四温の言葉どおり、寒い日と暖かい日を繰り返しながら、弥生三月を迎えました。
本日ここに、多数のご来賓の方々のご臨席をいただき、第68回卒業証書授与式を挙行できますことを皆様とともに喜びたいと思います。
さきほど、197名に卒業証書を授与いたしました。卒業生の皆さん、そして保護者の皆様、ご卒業おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
さて、本年度創立90周年を迎えた本校の卒業生は、大正15年開校の玉島商業学校時代からの卒業生に本日の卒業生を加えた15,837人となりました。
これほど多くの卒業生を送り出してきた本校の歴史を思うとき、この玉島の地、備中の地を永年にわたって支えてきたことを誇りに感じるとともに、その責任の重さを痛感しているところであります。
私は昨年4月に赴任してきたばかりで、卒業生の皆さんとは僅か1年間のおつきあいでした。授業を持たない校長の身としては、皆さんの前で話しをする始業式、終業式、全校朝礼や学校行事のあいさつなどで、私の思いを伝えてきたつもりです。
いよいよ今日が最後になってしまいました。
昨年12月末の2学期終業式においては「命」ということをお話ししました。ちょうど12月1日に44才の教え子を亡くしたばかりでしたので、「命」の大切さを話しながら、その亡くなった教え子の当時の様子が脳裡に浮かんできて、感極まり、思わず涙し、嗚咽してしまいました。
思えば最近は、映画を観ては涙し、本を読んでは泣き、人の話を聞いても涙が出てきてしまいます。年を取るに従って、涙もろくなるもののようです。
その時には、「私はこれまで、最大の親不孝は、どんな理由であれ親よりも先に亡くなることだ考えて生きてきた」と話しをしました。命は自分だけのものではありません。かけがえのない自他の命を大切に、これからの人生を歩んでください。
今回、式辞を考えるに当たって、卒業生の皆さんへのはなむけに、何か言葉を贈りたいと思い、色々と考えてみました。私は、30才くらいから、本を読んで心に響いた言葉があれば記録に残してきました。流石に30年近く経つとノートが何冊にもなっているのですが、それらの総てに目を通した中で、相対性理論で有名な物理学者であり哲学者であったアインシュタイン博士の言葉に目が止まりました。おそらく、私が最近考えていることに合致した言葉だったのでしょう。
博士は「常識とは、18才までに身につけた偏見のコレクションである。」という言葉を残しています。
要は「常識に囚われるな」と言っているわけです。「囚われる」という漢字は「くにがまえ」即ち四角の中に人と書きます。囲いの中に人が閉じ込められていて、出られない状況を想像してください。一つのことに心が止まってしまって他のことを考えられない状態を表した漢字です。
私が修行してきた剣道の教えでは、一つ所に心が囚われている状態を「止まった心」と書いて「止心」といって、もっとも忌み嫌う心の状態です。このような状態では、臨機応変の対応はできません。止まっているように見えてもすごい速度で回転しているコマのように心が働いている状態が理想だと言われています。
常識とは、時代や場所、年齢によって全く異なり、変わっていくものです。
今や、小さい子どもでも、地球は丸いことを知っていますし、重力の意味さえ知っています。しかし、ほんの数百年前までの常識では、地面は何処まで行っても平らで、その周りを太陽や月がぐるぐる回っていたわけです。
これからの時代は、常識を疑がってかかる人が伸びていくと思います。当たり前だと思っていたことに疑問を持ち、「何故これをやるのか」、「何故こうなっているのか」と考えたときに、「以前からやっているから」、「以前からこうなっているから」という理由しか思い浮かばないようだったら、見直したりやめてしまうべきでしょう。
そして、これからの世の中は、まさにそうした、常識や過去の前例に囚われない人材を求めているのです。常識に疑いを持つこと、当たり前だと思われていることに「何故」と疑問を感じることの出来る感性を身につけていること、そんな社会人に育ってもらいたいと強く思います。
もう一つ、どうしても触れておきたいのは、近江商人の「三方よし」の教えです。昨年4月の赴任以来、幾度となく触れてきましたが、まだまだ記憶に定着していないようなので、卒業に当たって、最後にもう一度、この大切な教えを言わせてもらいます。
「売り手よし」「買い手よし」そして何よりも「世間よし」、この三つが「三方よし」の教えです。
商人の教えではありますが、どの職場、どの組織にも通用する素晴らしい教えだと考えています。
自分たちだけが良ければいいという考えではなく、サービスを受けた人々、商品を購入した人々が幸せになり、ひいては世の中が良くなっていくというこの「三方よし」の教えを意識して生きていってほしいと強く思います。
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」
皆さんの将来が明るく輝かしいものになることを切に願い、式辞といたします。

平成29年3月1日
岡山県立玉島商業高等学校長  延 原 良 明